遺産分割

 大切なご家族が亡くなられて、すぐに相続という法律問題に取り組んでいける方など一人もいません。誰しも故人の存在の大きさを再認識して憂うとともに、何から手を付けていけば良いのかも分からず途方に暮れてしまうこともしばしばです。しかし、否が応にも相続という問題には直面しなければなりません。

 

 預金口座の名義変更、不動産登記の名義変更、相続税の申告など、様々な手続きを行っていかなければなりません。

 

 これらの手続きに先立って何よりも必要なのは相続人間で遺産分割の協議を行うことです。きっちりとした話し合いをしないうちに預金口座からお金を引き出したことによって、親族の間で信頼関係が揺らぎ、大切な絆が失われてしまうということほど悲しいことはありません。

 

 相続について正しい知識を身に付け、円満な解決が図っていきましょう。

 

 遺産分割に関するQ&Aはこちら

相続の基礎知識

相続とは

 故人が残した財産(遺産)を受け取ることを相続といいます。また、この場合の故人を被相続人、相続を受ける人を相続人といいます。

 

 相続では、預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続人に承継されることになります。

相続人になる人

 相続人になる人は、民法887条、889条及び890条で次のように定められています。

  1. 配偶者・・・被相続人の配偶者は常に相続人となります。
  2. 第1順位の相続人・・・被相続人の子、孫(子が既に亡くなっているとき)
  3. 第2順位の相続人・・・被相続人の父母、祖父母(父母が既に亡くなっているとき)
  4. 第3順位の相続人・・・被相続人の兄弟姉妹、兄弟姉妹の子(兄弟姉妹が既に亡くなっているとき)

 配偶者は常に相続人となりますし、第1順位の相続人である子も必ず相続人になりますが、第2順位の相続人である父母は、第1順位の相続人である子がいない場合、第3順位の相続人である兄弟姉妹は、子も父母もいない場合に初めて相続人となります。

法定相続分

 それぞれの立場の相続人が、遺産のうちの何分の1を相続するかについて、民法900条は次のように定めています。

 

(1)配偶者と第1順位の相続人(子など)がいる場合

   配偶者:2分の1   第1順位の相続人:2分の1

 

(2)配偶者と第2順位の相続人(父母など)がいる場合

   配偶者:3分の2   第2順位の相続人:3分の1

 

(3)配偶者と第3順位の相続人(兄弟姉妹など)がいる場合

   配偶者:4分の3   第2順位の相続人:4分の1

 

 これは、法律が定めた相続分ということで、法定相続分と呼ばれます。

 法定相続分は、遺産分割協議を行う際の指針となるだけでなく、話し合いがまとまらずに遺産分割審判や訴訟になった場合には、原則として法定相続分に従った分割を命じられることになります。

 他方、遺産分割協議において、すべての相続人が納得しているのであれば、法定相続分と異なる割合で遺産を分けることもできますし、被相続人が遺言によって、法定相続分と異なる割合で遺産を分けるよう指示することもできます。

相続放棄と承認

 被相続人が亡くなりますと相続が開始されます。もっとも、相続人は必ず遺産を相続しなければならないわけではありません。特に、マイナスの財産(借金など)しかない場合や、プラスの財産(不動産など)とマイナスの財産(借金など)があるが、マイナスの財産の方が額が大きいような場合、相続人は相続をすることで損をすることになってしまいます。

 

 この場合、自己のために相続の開始があったことを知ったときから(通常は被相続人が亡くなったことを知ったときから)原則3か月以内に相続放棄の手続きを行います。この3か月の期間のことを熟慮期間といいます。

 

 ただし、相続人が、相続の承認を前提とした行動を取ってしまうと、当該相続人が相続を承認したものとみなされてしまい、相続放棄をすることが出来なくなってしまいます。これを法定単純承認といいます(民法921条)。法定単純承認として定めている事由は次の3つです。

  1. 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(ただし、保存行為と短期間の賃貸を除く)
  2. 相続人が熟慮期間中に相続放棄等をしなかったとき
  3. 相続人が相続放棄等をした後、相続財産を隠したり消費するなどしたとき

 

 ある相続人が相続放棄を行うと、その方以外の相続人間で遺産を分けることになります。相続人全員が相続放棄をして、相続する人が一人もいなくなると、家庭裁判所は相続財産管理人を選任し、そこで清算が行われます。最終的に、プラスの財産が残ればその財産は国庫に帰属し(民法959条)、マイナスの財産が残れば債権者は債権回収を諦めざるを得なくなります。

遺産分割の基礎知識

遺産の性質

 相続が開始すると、被相続人の財産(遺産)は相続人の共有財産となります。

 共有財産ということは、共有者が持ち分を勝手に処分することが出来ないということを意味します。具体的なケースで見てみましょう。

 

【具体的なケース】

 母(X)が亡くなり、姉(A)と弟(B)の二人が相続人だったとしましょう。遺産は港区の一軒家(不動産①)と千代田区のマンション一室(不動産②)だけだったとします。Aは不動産①に住んでおり、Bは不動産②に住んでいました。遺言はありませんでした。

 この場合、不動産①と不動産②はいずれもAとBがそれぞれ2分の1の持ち分で共有している状態になります。そのため、Aが不動産①を勝手に売ったり、Bが不動産②を勝手に他人に貸したりすることはできないのです。

 

 遺産分割は、遺産の共有状態を解消するために、個々の不動産を各相続人に分ける手続きといえます。上記のケースであれば、例えば「Aが不動産①を相続し、Bが不動産②を相続する」というように決めることが遺産分割なのです。

遺産分割の方法

 遺産分割をするには、相続人全員の意見が一致しなければなりません。相続人全員が納得する遺産分割の仕方を決めるために話し合うことを遺産分割協議といい、協議の末、全員が納得した結果を文書にしたものを遺産分割協議書といいます。

 上の【具体的なケース】でいいますと、AとBが話し合いの末、「Aが不動産①を相続し、Bが不動産②を相続する」ということが決まれば、その内容を遺産部活協議書に記載し、AとB双方が署名捺印します。そうして初めて、Aは不動産①を、Bは不動産②を自由に処分することができるようになるのです。

 

 ところで、不動産①の時価が1億円、不動産②の時価が1億5000万円だった場合はどうなるでしょう?単純に「Aが不動産①を相続し、Bが不動産②を相続する」ということで話がまとまるでしょうか?もちろん、損をしているAさんがそれで良いと言えば何も問題ありません。しかし、Aさんとしては、Bさんと法定相続分が同じなのに、受け取る財産の価値が5000万円も少ないのは納得できないかもしれません。このような場合、次のような分割方法が考えられます。

 

(ア)現物分割

 あくまで物は物として分けようという方法です。【具体的なケース】の例でいいますと、例えば不動産①と不動産②をそれぞれ半分の面積に分けて(分筆)、不動産①‐1、不動産①‐2、不動産②‐1、不動産②‐2とし、Aが不動産①‐1と不動産②‐1を、Bが不動産①‐2と不動産②‐2を相続するというものです。

 

(イ)代償分割

 現物分割が困難であったり、細分化によって価値が大きく減少してしまう場合もあります。そこで、Aが不動産①と不動産②を相続することにして、AからBに代償金を支払って調整するという方法が考えられます。これを代償分割といいます。Aが不動産①と不動産②を相続する場合、AがBに1億2500万円を現金などで支払えば、AとBが相続によって得た財産の価値は等しくなります。代償分割の問題点は、代償金が多額になる場合に、それを支払える相続人がいるかどうかという点です。

 

(ウ)換価分割

 現物分割も代償分割も難しいという場合、最後は遺産を全て現金に代えてしまって(つまり遺産を売却して)、そのお金を相続分に従って分配するという方法が考えられます。これを換価分割といいます。【具体的なケース」でいえば、不動産①と不動産②を売却して、(2億5000万円で売れたと仮定して)AとBが1億2500万円ずつ取得するということになります。

 

 さらに、上記の分割の組み合わせというのも考えられます。例えば、Aが不動産①を取得して、不動産②を売却し、入ってきた1億5000万円のうち2500万円をAが取得し、残り1億2500万円をBが取得するといった方法です。

 いずれにしても、AとB双方が納得できる方法を探さなければなりません。

遺産分割協議がまとまらなかったら

 話し合いを尽くしても相続人全員が納得できる分割方法が見つからなかった場合には、遺産分割審判の申立てを行うことにより、遺産分割の方法を裁判所に決めてもらうことができます。裁判所は、相続分を前提として、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」遺産分割の方法を定めます(民法906条)。

 

 遺産分割の審判は判決と同じ効力を持っていますので、裁判所が定めた分割方法に従って、強制的に相続を実現させることができます。このため、遺産分割審判の申立てに際しては、最終的に裁判所による審判が下される場合、どのような審判になるだろうかという点を、事前に十分検討しておく必要があります。

 

 なお、通常は遺産分割調停が審判に先立って行われます。遺産分割調停の期間に特に決まりはありませんが、4~6か月程度かけて話し合いが行われるケースが多いように思います。

弁護士費用について

相続放棄の申述

 相続放棄の申述期間は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」です(民法915条1項)。また、法定単純承認に該当する事由があった場合、相続放棄は認められません。ただし、一見すると熟慮期間が経過してしまっていたり、法定単純承認に該当する事由があるように見える場合であっても、事情によって相続放棄が認められる場合もありますので、まずはお気兼ねなくご相談下さい。

事件の種類 着手金 報酬金
事案簡明な場合 5万円 0円
複雑な事情がある場合 5万円 5万円~

遺産分割手続サポート

 依頼者様自身で他の相続人様と話し合いをする場合に、弁護士が法的な見地からアドバイスをさせていただくサービスです。面談、お電話、メール、FAXなどを通じて、法的な制度についてご説明したり、他の相続人様にご納得いただくための説明方法についてアドバイスしたり、妥当な遺産分割の額を算定するなどのサービスを提供させていただきます。

プランの種類 サポート時間(月) 月額サポート料
ライトプラン 1時間 2万円
スタンダードプラン 3時間 4万円
※オプション 遺産分割協議書作成 5万円~

遺産分割協議手続代理

 弁護士が依頼者様の代理人となって他の相続人様と交渉を行うサービスです。調停及び訴訟においては、手続代理人として、裁判所への提出書類を作成し、調停委員や裁判官と交渉を行います。

手続の種類 着手金 報酬金
交渉 20万円 20万円
調停から審判 +10万円(調停からの場合30万円) 30万円
訴訟 +10万円(訴訟からの場合40万円) 40万円

 獲得した経済的利益の額が250万円を超える場合は、一般の金銭訴訟と同様の報酬計算となります。

 

例)他の相続人様が、依頼者様の相続財産の額を1,000万だと主張していたところ、訴訟によって依頼者様の相続財産の額が1,500万円に増えたという場合、増えた500万円分が経済的利益ということになります。

ニューストピックス

■H28.10.21 遺産分割Q&Aに「特別縁故者の認容例」に関する記述を追加しました。

■H28.10.12 遺産分割Q&Aに「遺産分割の時期」と「内縁配偶者の相続可否」に関する記述を追加しました。

■H28.7.27 説明書に関する著作権侵害訴訟で一部勝訴判決を得ました。

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