このページでは、遺産分割に関する様々な疑問にお答えしています。
Q.1 遺産分割の調停や審判はどこの裁判所に申し立てれば良いのですか?
Q.4 生前贈与が特別受益に当たる、とはどういう意味ですか?
Q.1 遺産分割の調停や審判はどこの裁判所に申し立てれば良いのですか?
A.1 調停事件として申し立てる場合と審判事件として申し立てる場合とで異なります(遺産分割事件には調停前置主義が適用されないため、いきなり審判の申立てを行うことも可能とされています。)。
ア 調停事件として申し立てる場合
相手方の住所地(相手方が複数いて住所地が異なる場合は、どの住所地でも構いません)を管轄する家庭裁判所が原則です(家事手続法245条1項)。
イ 審判事件として申し立てる場合
相続開始地である被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事手続法191項1項、民法883条)。
Q.2 相続財産の評価について教えて下さい。
A.2 相続財産の評価については、「相続財産の評価時期」と、「相続財産の評価方法」という二つの点が問題になります。
(1)相続財産の評価時期
財産の価値は変動するものです。したがいまして、いつの時点の相続財産の価値を相続財産の価額として評価するかというのは重要な問題です。相続財産の評価時期は,現実に遺産分割するために評価する場合と、特別受益の額などを計算する場合とで異なります。
ア 現実に遺産分割するために評価する場合
この場合、各共同相続人が取得する財産の価値的衡平を図るため、遺産分割の時点(遺産分割協議においては協議成立日、遺産分割審判手続においては審判確定日)と解されています。
イ 具体的相続分算定のために評価する場合
特別受益の額の計算など、具体的相続分算定のための評価の場合、判例は「被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、右記贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価するものと解するのが相当である」としており(最高裁第一小法廷判決昭和51年3月18日民集30巻2号111頁)、相続が開始した時点すなわち被相続人が亡くなった時点が相続財産の評価時期と考えられています。
(2)相続財産の評価方法
相続財産には、預貯金、不動産、株式、動産など様々な種類の財産が含まれます。現金や預貯金であれば、評価額は明確ですが、不動産などの場合、これをどう評価するかによって価額に大きな差が出てきてしまいます。ここでは、代表例として、不動産と株式の評価方法について述べたいと思います。
ア 不動産
不動産の価格には、時価(実勢価格)、公示価格、固定資産税評価額、相続税路線価などがあり、固定資産税評価額は公示価格の7割程度、相続税路線価は公示価格の8割程度といわれています。相続人間で不動産価格の評価に争いがあるような場合、不動産鑑定士に適正価格を算定してもらうという方法の他、実務では、高い実勢価格と低い固定資産税評価額の間を取るといった簡易な方法による調整も行われます。
イ 株式
上場株式の場合、分割時に最も近接した時点での取引価格、あるいは近接の一定期間の平均額によって算定します。
非上場株式の場合、相続税申告書に記載された評価額を参考にするのが一般的です。
Q.3 相続欠格と推定相続人の廃除について教えて下さい。
A.3 どちらも、相続人としてふさわしくない人を相続の対象から外す制度です。なお、当人のみを相続の対象から外すという趣旨から、相続欠格該当者ないし被廃除者に子がいる場合は、その子は代襲相続人となり、相続の当事者となることができます。この点が、代襲相続が起こらない相続放棄とは異なっています。
(1)相続欠格
次の者は、相続人となることができません(民法891条)。これを相続欠格事由といいます。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
(2)推定相続人の廃除
推定相続人が、相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人のその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます(民法892条)。廃除は遺言によってすることもできます(民法893条)。
Q.4 生前贈与が特別受益に当たる、とはどういう意味ですか?
A.4 生前贈与が特別受益と評価される場合、遺産分割に際し、相続財産に生前贈与を加えたものを相続財産とみなした上で、相続人の相続分を計算し、生前贈与を受けた者については、その相続分から生前贈与の額を控除します。これは、共同相続人間の公平を図るための制度といえます。簡単に言えば、生前にたくさん贈与を受けた人がいる場合、その贈与分は相続分から引きましょうということなのです。
Q.5 どのような生前贈与が特別受益に当たるのでしょうか?
A.5 法律上は、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」の贈与とされています(民法903条1項)。もう少し具体的にみてみましょう。
(1)婚姻、養子縁組のための贈与
持参金、嫁入り道具、結納金、支度金などがこれに当たります。挙式費用については、一般的にはこれに当たらないと解されています。
(2)生計の資本としての贈与
大学の入学金、家を購入する際の頭金、営業資金など様々なものがこれに当たり得ます。もっとも、教育費については、被相続人の生前の資産収入や家庭事情などによっても異なり、審判では肯定例(大阪家審昭和40年3月23日家月17巻4号64頁など)も否定例(盛岡家審昭和42年4月12日家月19巻11号101頁など)もあります。
Q.6 寄与分とはどういう制度ですか?
A.6 寄与分とは、共同相続人中に、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がある場合に、他の相続人との間の実質的な公平を図るため、その寄与をした相続人に対して相続分以上の財産を取得させる制度をいいます(民法904条の2)。
ここで、特別の寄与とは何かが問題となります。特別とは、身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献をいうと解されています。
寄与の方法としては、次のようなパターンがあります。
Q.7 遺産分割協議はいつ行えばいいのでしょうか?
A.7 共同相続人は、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができます(民法907条1項)。ただし、遺言による分割禁止や家庭裁判所の分割禁止の審判があるとき、または相続人間で分割を禁止した場合には、その期間中は分割することができません。
つまり、もし仮に、相続人の中に遺産分割に反対している人がいたとしても、基本的にいつでも遺産分割を求めることは可能だということです。
他方、相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。では、遺産分割が未了のまま10か月が過ぎようとしている場合にはどうすれば良いのでしょうか。この場合は、各相続人が法定相続分を取得したものとして相続税計算を行い、申告期限内に申告納税を行うことになります。なお、未分割の申告では、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例は適用できないため、税務署に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておき、遺産分割が確定した時点で、税務署に修正申告を行うことになります(これによって、払い過ぎた相続税の還付や足りない相続税の追加納付を行います。)。
Q.8 内縁の夫や妻には相続権は一切認められないのでしょうか?
A.8 内縁配偶者や事実上の養子について、相続権は認められないと解されています(最決平12.3.10民集54-3-1040は、内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできないと判示しています。)。
ただし、特別縁故者として、相続人が不在の場合に相続財産の全部または一部の分与を請求することができます(民法958条の3)。また、被相続人の借家権を承継して、建物の賃借人としての権利を承継できる場合があります。すなわち、居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻または縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継するとされています(借地借家法36条1項)。
Q.9 特別縁故者とはどういう制度でしょうか?
A.9 相続人がいない場合(相続人を捜索するための公告で定められた期間内に相続人である権利を主張する者がなかった場合)、家庭裁判所は、相当と認めるときは、被相続人と特別の縁故のあった者(特別縁故者)の請求によって、その者に、清算後残った相続財産の全部または一部を与えることができます(民法958条の3)。
自動的に財産が分与されるわけではなく、家庭裁判所への申立てが必要であることに注意が必要です。
では、具体的にはどのような方が特別縁故者に当たるとされるのでしょうか。家庭裁判所の審判で特別縁故者として認められた例をいくつか挙げてみます。
ア 被相続人と生計を同じくしていた者
(ア)20年以上生活を共にした内縁の妻
(イ)20年にわたって同居し被相続人である姪の家事一切の世話をしたほか、田畑を耕作して作物を作るなど、家族の一員であった叔母
イ 被相続人の療養看護に努めた者
報酬を得て療養看護にあたった者(家政婦など)でも、報酬以上に献身的に被相続人に尽くしてきた場合には、特別縁故者たりうる。
ウ その他被相続人と特別の縁故があった者
(ア)50年以上にわたって被相続人の相談相手として孤独をなぐさめ、経済面でも支援し、死に水までとった被相続人の教え子
(イ)被相続人を雇用するとともに同人一家のため家を購入してやり、その後負傷した被相続人のため経済的援助を行った会社経営者
特別縁故者として認められるためのハードルは決して低いとはいえませんが、様々な類型の特別縁故者が認められています。
■H28.10.21 遺産分割Q&Aに「特別縁故者の認容例」に関する記述を追加しました。
■H28.10.12 遺産分割Q&Aに「遺産分割の時期」と「内縁配偶者の相続可否」に関する記述を追加しました。
■H28.7.27 説明書に関する著作権侵害訴訟で一部勝訴判決を得ました。
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